カレイのゼリーミート(ジェリーミート)について

◆はじめに

弊社でカレイを使った商品を作ると(主としてカレイフライ、カレイの竜田揚ですが…)、次の様なクレーム発生します。「油調をしている最中に、身が溶けてなくなってしまった」「中身がなくて衣だけになっている」「パンクがひどい」といった内容です。

もちろん、原料となるカレイにグレース(氷の膜)があったとか、バッター液に問題があるなどの原因もありますが、改良してもやはり、この種のクレームはでてしまいます。なぜなのでしょうか?

これは、もっと根本的な原因あると思い、調べてみました。


◆ジェリーミートとは?

 みなさまは「ジェリーミート(ゼリーミート)」という言葉をご存じでしょうか?

ジェリーミートとは魚の異常肉の一種であり、定義として「漁獲後の魚の筋肉が、腐敗とは無関係に進行的に軟化し、ついには、流動状になるまで崩壊・液化すること」です。
メルルーサや北部太平洋のカレイ類などで多く見られ、カツオ、マグロ、カジキにおいても頻度は低いですが見られます。

◆ジェリーミートの原因

原因は粘液胞子虫類という寄生虫が関わっています。この粘液胞子虫は、魚の筋細胞内に無数の胞子を形成する細胞内寄生おこないます。そして魚の死後、寄生虫由来のタンパク質分解酵素が筋肉の中に融解し、感染した筋繊維とその周辺菌細胞を崩壊させ、液化空胞を形成させます。これがジェリー化と言われるものです。液化空胞はジェリー化の進行と共に大きくなり肉全体が蜂の巣状になり、ついには崩壊して液状となります。


◆要約すると…

 私は専門的な知識がないので、正しくはわかりませんが、ようするに、魚の中に特殊な寄生虫がいて、その寄生虫がだすタンパク質分解酵素が、魚の肉を溶かしジェリーミートになるものだと思っています。魚と寄生虫の関係は共生関係であり、魚が生きている状態ではジェリーミートは進行しないということも付け加えておきます。

◆発見方法

 現在の所、完璧な方法は見つかっていません。ジェリーミートに侵されている魚肉には、特有の症状があります。それは、米粒状の斑点がぽつぽつと肉に点在することです。弊社ではこういった魚肉は取り除いているのですが、それでもジェリーミートが原因と思われるクレームがでます。

 専門の本には次のように書いてありました。まず上で取り上げた米粒状の斑点を「シスト」と言うそうです。シストとは宿主魚の結合組織が粘液胞子虫の外側を薄く取り巻く包嚢です。このシストの中で粘液胞子虫は栄養を吸収し、分裂・増殖して無数の胞子を形成します。

 このシストですが、すべての粘液胞子虫がシストを作るわけではないようです。粘液胞子虫はまず宿主の筋肉に寄生します。それから粘液胞子虫の発育途中で宿主の筋繊維が壊れ、宿主反応が誘導された結果、被包され初めて輪郭明瞭は「シスト」となるそうです。

 ここで問題なのは、すでに筋肉に寄生している粘液胞子虫はシストを作らないということです。また一般的に粘液胞子虫は宿主との関係の歴史が長いほど相手に適応し病害性が低下し、共生的な関係に近づくと言われています。この粘液胞子虫は、宿主の組織と似たようなタンパク質(抗原物質)を身にまとう(擬態する)ことで宿主反応から逃れているという説もあるそうです。

 さて、自分なりにまとめてみますと、「ジェリーミートになる寄生虫はシストを作るものばかりでない」ということです。中にはシストを作る以前の初期段階のものもありますし、また共生関係を持つものはシスト自体作らないということにもなります。

 よって、シストがあるものを取り除いても、ジェリーミートになる可能性はあるということになります。ちなみに、この粘液胞子虫の大きさは1mmの百分の1程度で肉眼では判別できません。

 さらに、ジェリーミートの発見を難しくする原因があります。それは粘液胞子虫が産出するタンパク質分解酵素です。この酵素は宿主が生きている間は反応せず、死後作用し始めます。冷凍魚の場合、解凍してから作用が始まります。

酵素の活性は60℃位でもっとも高くなるそうです。メルルーサの例ですと、4℃で12週間、25℃で20時間、60℃で4分。この状態で筋肉が流動状になるという報告があります。

 この60℃というものがくせ者でして、当社では魚を冷凍のまま加工し商品に致します。その後、製品が加熱・油調されるわけです。このときになって初めて、ジェリーミートが進行しクレームになります。

◆人体への影響

 結論からいいますと、粘液胞子虫は人間に寄生するという報告はなく食べても無害であると考えられます。ある報告では、検便にそのままこの粘液胞子虫がでてきたという報告もあります。これはこの粘液胞子虫を食べても寄生を受けず、ただ排出されるということを意味しています。

 しかし、次のような反論があります。「一般に中間宿主をいくつか渡り歩く寄生虫は、生物進化の過程で成立してきた食物連鎖を利用して、宿主を乗り換え、発育をステップアップさせる術を身につけてきた。ヒトが地球上に誕生し魚食文化が始まってから相当な年月が経っているはずであり、魚肉に寄生する粘液胞子虫の中には哺乳類寄生するような変異種が現れてもおかしくない」このようなものです。

 それでも、現在の所ヒトに寄生したという報告がないとうのが、事実です。

◆対策

 当社では、充分な照明のもと目視検査をし、シストがある魚肉は廃棄しております。しかしそれでもジェリーミートによるクレームが発生しますので、予備(スペア分)を増やすという対策をとっております。

 しかし、根本的な解決にはなっておらず悔しい限りです。

〈参考文献〉
 魚の異常肉 尾長谷史郎
 魚肉に寄生する原虫 横山博
 食のQ&A http://www.cfqlcs.go.jp/administrative_information/public_relations_magazine/kouhousi/question_and_answer_of_food/qa62.htm