サケのゼリーミート

▽一般のジェリーミート
 一般にジェリーミートの原因は、筋細胞に寄生した粘液胞子虫という寄生虫がプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)をだし、筋細胞内で肉質を軟化及び融解させることです。
 しかし、最近、秋鮭のジェリー化(身質の軟化・融解)についてのクレームがきました。鮭一般に関しましても確かに、寄生虫が原因でジェリーミートになる場合があるのですが、調べていく内に鮭に関しては鮭特有の理由でジェリー化する場合が多々あるようです。今回のこの原因について書いていきたいと思います。

▽原因1:鮭のブナ化
 秋鮭に関しましては、ジェリー化とブナ化は切っても切り離せない関係があります。鮭のブナ化については別の項で書いておきました。詳しくはそちらを参照下さい。ここでは簡単な説明だけに留めます。
 秋鮭は川に遡上する際、絶食状態になり、今までに蓄えてきたエネルギー源だけを使用し活動します。平行して雌は卵巣(イクラ)は大きくなります。その際、脂質・タンパク質などを消費し、それを補うように水分が増えていきます。この段階ですでに鮭の身質は水っぽくなります。ここで軟化する説明ができます。
 加えまして、自分のエネルギーだけで他からの補給がないため、鮭はやせ衰えていき筋細胞は死んでいくことになります。ここで免疫機能として食細胞というものがありまして、この食細胞が死んでいった細胞を分解していきます。このときにプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)が活発に活動し、融解が始まるのです。飢餓に直面した鮭はそのストレスによりプロテアーゼの活動も活発になるそうです。
 また、定置網にかかりました鮭は逃避行動により、過度のストレスを受け、これによってもプロテアーゼの活動が活発になり、身質が融解しやすくなるという報告もあります。

▽原因2:冷凍保管
  鮭のフィーレを製造する工場から、聞いたのですが、鮭のジェリー化は冷解凍を繰り返すほどに進行するそうです。冷凍前は通常の身質であるのに、冷解凍するとジェリー化する比率が増えるそうです。特に※緩慢冷凍はしてはいけないと言われました。これにはどのようなことが関わっているのでしょうか?

※緩慢冷凍
 私が説明するより下の参考資料にありますページを見てもらった方が納得できると思うのですが(とてもわかりやすいです)、一応書いておきます。
 冷凍には急速冷凍緩慢冷凍とがありまして、急速冷凍は文字通り、低い温度で冷凍させること。弊社ではスパイラルフリーザー(-42℃、20分凍結)、または凍結庫(-30℃)での冷凍を行っています。
 一方、緩慢冷凍がありまして、この冷凍法は比較的高めの温度で冷凍させること。弊社では余った魚を時間がないと解凍庫(-5℃)に入れるのですが、ここに解凍した魚を入れ、再凍結(緩慢冷凍)しますと、切る魚がザクザクした感じになります。この感じになりますと失敗したと後悔します。
 なぜ、ザクザクした切り身なるかと言いますと、これは凍ったときの、氷の結晶の大きさの違いです。
 水分が凍るときの温度は-1℃~-5℃でございます。この温度帯で氷の結晶ができます。この温度帯がくせ者でして、この時間が長ければ、氷の結晶が大きくなります。これは細胞内の浸透圧の関係で水分が集まるからだそうです。逆に、この温度が短ければ、氷の結晶が小さくなります。
 緩慢冷凍することにより、氷が大きくなり、その氷を切ればザクザクした感じになるわけです。
 この緩慢冷凍により、氷が大きくなりますと細胞が壊れてしまいます。細胞が壊れますと旨みや栄養成分でありますドリップが出てしまいます。

 話しを戻します。冷凍→解凍によって、ジェリー化が進行するには2つの原因が重なっています。
 1つは冷凍(特に緩慢冷凍)。これは上で述べましたが、氷が細胞を破壊します。急速であろうが緩慢であろうが冷凍は細胞を破壊させます。
 もう1つは、タンパク質分解酵素(プロテナーゼ)によるもの、冷凍→解凍によって破壊された細胞はプロテナーゼによって分解されやすくなります。また細胞が破壊されることにより、このプロテナーゼはあまねく全体に広がり、ジェリー化が全体に広がります。

▽ではどうすれば、秋鮭はジェリー化しないのか?
 秋鮭のジェリーミートに関しまして、キーワードはプロテナーゼの活動を小さくすることです。できるだけ冷解凍をしないことです。であるならば、ブナ化初期の鮭を使用し、鮮度のよいまま加工し、消費までできるだけ冷解凍させないこと(※緩慢冷凍は厳禁)がその対策となります。文章で書くと簡単ですが、費用や時間の面で大いに問題が出ますね。
 また「プロテナーゼの活動を小さくする物質を使用する」という研究がされているそうですが、このプロテナーゼの働きを鈍くする物質。これはまだ実現には時間がかかり未来の話しになりそうです。

▽参考資料
 茨城県水産試験場 蔀 伸一様からのお話
 ブナ化と成分変化 羽田野 六男

 中央水産研究所 産卵期鮭の肉質軟化機構に関する研究 山下 倫明 http://www.nrifs.affrc.go.jp/news/news09/12_13.htm
緩慢冷凍に関しましてここを参照しました。
http://www.ktv.co.jp/ARUARU/search/arureito/reito_2.html